きよしさんのケース
きよしさんは、外出前にガスの元栓や鍵の確認に時間がかかるようになり、次第に仕事や買い物にも影響が出るようになりました。「ちゃんと閉めたはずなのに、本当に大丈夫?」という不安が消えず、確認を何度も繰り返してしまいます。最終的に、精神科で強迫性障害と診断され、薬物療法を始めることになりました。

強迫性障害とは?
強迫性障害(OCD)は、「強迫観念」と「強迫行動」という2つの特徴を持つ精神疾患です。
強迫観念とは?
強迫観念とは、不安を引き起こす考えやイメージが何度も浮かんでしまう状態を指します。例えば、
- 「手が汚れているかもしれない」
- 「ガスを閉め忘れたら火事になるかもしれない」
これらの考えは本人の意思とは関係なく繰り返され、強い不安を引き起こします。
強迫行動とは?
強迫行動とは、強迫観念による不安を軽減するために行う行動のことです。例えば、
- 何度も手を洗う
- 鍵を閉めたか何度も確認する
こうした行動を繰り返すことで一時的に安心できますが、すぐにまた不安になり、手洗いや確認行動が止まらなくなる悪循環に陥ってしまいます。

これまでの治療法:「暴露反応妨害法」
強迫性障害の治療には、薬物療法とカウンセリングの併用が効果的です。従来のカウンセリングでは、”暴露反応妨害法(ERP: Exposure and Response Prevention)”が主流でした。
ERPは、クライエントが不安を感じる状況にあえて直面し(暴露)、その後の強迫行動を抑える(反応妨害)ことで、不安への耐性を高める方法です。例えば、きよしさんのケースでは「鍵の確認をしないで外出する」という課題に取り組むことで、不安を克服していきます。
しかし、ERPは大きな不安を伴うため、取り組むこと自体が難しい場合もあります。クライエントの負担が大きく、始めるまでに時間がかかることも課題とされています。

新しいアプローチ:「言語的価値低減法」とは?
そこで、当カウンセリングでは、ERPに代わる方法として「言語的価値低減法」を取り入れています。
この方法は、岡嶋美代先生(公認心理師、日本認知・行動療法学会専門行動療法士、認知行動療法スーパーバイザー、BTCセンター代表)が開発されたものです。
強迫性障害のある方は、考えが極端になりやすい傾向があります。例えば、
- 「汚い or きれい」
- 「正しい or 間違っている」
このように2分法で捉え、完璧な「きれいさ」や「正しさ」を求める思考パターンがみられますが、これが強迫観念を悪化させる要因の一つです。
強迫性障害でない人は、例えば「公園のベンチはほぼきれい」と思えば、座ることができるのですが、強迫性障害の方は「完全にきれい」でないとそこに座ることができないと感じてしまうのです。
言語的価値低減法の具体的な方法
言語的価値低減法では、「汚い or きれい」を分けずに思考を緩めることをめざします。例えば、
- 「手に菌がついて汚れた!」
- 「鍵を閉め忘れたかも・・・」
などの強迫思考に対して「そうかもね」「はいはーい」と言って受け流し、不安に慣れていくことを目指します。この習慣を繰り返すことで、強迫観念の影響が弱まり、強迫行動が減ることが期待できます。
暴露反応妨害法は、あたかも清水の舞台から飛び降りるような覚悟を決めて強迫観念に戦いを挑むようなプロセスですが、言語的価値低減法は、お子さんでも日常生活の中で自然に取り組んでいただける方法だと思います。

強迫性障害で悩んでいる方へ
もし、「自分も強迫性障害かもしれない」と感じているなら、一人で悩まずに専門家に相談することが大切です。カウンセリングを通じて、「完璧にしなければならない」という思考のバランスを取り戻し、もっと楽に生きられる方法を見つけましょう。あなたが少しでも楽になれるよう、サポートさせていただきます。
参考リンク
岡嶋美代先生のHP(BTCセンター)では、「言語的価値低減法」について詳しく紹介されています。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。