このコラムでは、強迫性障害への認知行動療法を用いたカウンセリングについて、書物の紹介という形で説明していきます。まずは下の架空事例をお読みください。
中学2年生のめぐみさんの場合
中学生のめぐみさんは、いつからか学校を汚い場所と思うようになりました。そのため学校から帰るとまずシャワーを浴びて1時間かけて体々まで洗い、制服は毎日、お母さんに洗濯してほしいと頼みました。通学かばんは、学校で床に置くこともあるため、めぐみさんにとってはとても汚いものに見えました。家の中に持って入ることができず、玄関が置き場所になりました。
そのうちめぐみさんは小学生の弟にも帰宅後のシャワーを強いるようになりました。めぐみさんがとても怒るので、弟は仕方なくめぐみさんの指示に従うようになりました。
強迫性障害とは?
めぐみさんは「強迫性障害」という心の病気にかかっている可能性が考えられます。
強迫性障害とは自分の意思に反して不安や不快な考え(例:学校は汚い)が浮かんだり、それらの不快感を解消するための行為を何度も繰り返す(例:帰宅後にシャワーを浴びる)ことで日常生活に支障が出るこころの病気です。
子どもが発症した場合は家族を巻き込むこともよくあります(例:母に毎日制服を洗濯してもらう、弟にシャワーを強要する)。
下に挙げた最初の資料によると子どもの強迫性障害の発症率は100人~200人に一人だそうで、めずらしい病気とはいえないでしょう。
「認知行動療法による子どもの強迫性障害の治療プログラム OCDをやっつけろ!」
J・S・マーチ, K・ミュール著 原井宏明・岡嶋美代訳 岩崎学術出版社
治療者向けの本ですが、巻末の「付録Ⅲ 親へのヒント、ガイドライン、情報源」が保護者の役に立ちます。
子どもの強迫性障害の解決には、保護者が子どもとの関わり方について具体的に知ることが必要です。子どもから「制服を毎日洗濯して」と頼まれたら、親は「学校が汚いと感じるんだね。心配なんだね」と共感しつつも、制服を洗濯することに協力できないことをやさしく説明できるとよいでしょう。
「イラスト版 だいじょうぶ自分でできる心配のおいはらい方ワークブック」
ドーン・ヒューブナー著 ボニー・マシューズ絵 上田勢子訳 明石書店
強迫行為をすると(シャワーを浴びると)、不快感が一時的に消えますが、強迫観念をますます強めてしまいます(学校が汚いことをシャワーを浴びることで自ら証明してしまうため)。
心配や不安についても同じで、心配なこと・不安なことについて深く考え続けると、それらはますます大きく強くなっていく、という悪循環が起きます。
この本では心配ごとをトマトに置き換えて、不安のメカニズムを子どもにもわかりやすく説明しています。子どもがよく経験するほかの不安(例えば学校へ行くことや人と関わること)の理解と対処にも役に立つでしょう。
心配に割く時間を減らすことで心配を減らしていくワークも紹介されており、このワークをおとなの方に紹介することもあります。
さいごに
子どもの強迫性障害の治療には、成人と同様、服薬と並行してカウンセリングを受けていただくことが有効です。
強迫性障害の子どものカウンセリングでは、視覚的なイメージを用いて病気への理解を促したり、強迫行為を減らすための行動を実際に経験してもらったりと、お子様に合った工夫をしています。保護者とも関わり方をご一緒に考えます。
成人で強迫性障害にお困りの方は、コラム「ブックレビューで解説:強迫性障害への認知行動療法(成人編)」もお読みください。
(竹田)