不安の役割
私たちは毎日、いろいろな感情を経験しながら生活しています。
どんな感情にもそれぞれ、役割があると考えられています。
例えば、怒りの感情が人とのやりとりの場面で生じたとき、「相手の言っていること・やっていることはなにかおかしい」と知ることができます。
不安についても同様で、大勢の前で発表するとき、気を遣う仕事の前、重要な試験の時など、不安な気持ちになるのは自然なことです。
不安の感情が起きたとき、私たちは危険に備えて準備したり、場合によってはそのことを避けたりするかもしれません。
ですが、不安や心配が大きくなりすぎてしまうと生活に支障が出ることもあります。
人との関わりを避けて外出ができなくなったり、鍵を掛けたかどうかを何度も確認して時間を使ったり、といった問題が高じると、生活の幅が狭まったり、時間やエネルギーが足りなくなるという不便が生じます。
不安とリラクゼーション
不安が強いときは、呼吸が速くなったり、身体の筋肉が緊張したり、脈が速くなったり、口の中が乾いたりといった生理的な変化が起きます。
私たちの心と体は繋がっているのです。
この関係を逆の方向に向けて、身体面から感情面をコントロールする試み、つまり、身体をリラックスさせることで、心の不安を軽くしようとするのが、“リラックス法”“リラクゼーション”などと呼ばれる対処法です。
呼吸法は手軽にできる“リラクゼーション”のひとつの方法です。
不安になると、人は浅く早い呼吸を胸ですることが多くなり、それがまた新たな身体症状を生み出すことになります。
深くゆっくりした呼吸をすることによって不安をやわらげることが期待できます。
呼吸法のやり方について説明します。
まずゆったりと椅子に座り、両腕は横に垂らすか、膝の上に置きます。
ゆっくりと鼻から息を吸い(1,2,3と数える)、その後、ゆっくりと口から息を吐きます。
息を吐ききったところで身体の力を抜くように意識すると良いでしょう。
(下のイラストを参考にしてください。立った姿勢で行ってもOK。)
私(竹田)が総合病院で勤務していた頃、80名ほどの職員の方々を対象に研修を行い、呼吸法を試していただきました。
呼吸法を行う前後で脈を測っていただいたところ、多くの方の脈拍数が呼吸法の後に減ったことが確認できました。
趣味や娯楽も体の緊張をゆるめる効果があります。
これらの活動を楽しみ、リラックスすることが不安の軽快に役立つでしょう。
不安で困っている方へのカウンセリング
強い不安があり、生活に支障が生じている方に、薬物療法と並行してカウンセリングを受けることをお勧めします。
不安があるからといって、その事柄や場所を避けているとずっと不安なままで生活しなければなり、とても不便だと思います。
やっかいなことに、不安を避けていると、不安はますます大きくなっていくことさえあります。
カウンセリングでは、苦手なモノや場所に少しずつ慣れていく練習をしていきます。
最初は小さな不安に慣れることから始め、次第に強い不安にも挑戦していきます。
階段を上っていくように、小さなステップを踏んでだんだんと不安に慣れていくのです。
スポーツ選手はやや緊張している方がベストの力を出せるのだそうです。
めざすは“ほどよい不安・緊張”というわけです。
不安はゼロにしなくてよいのです。
不安によって起きる心の病気
不安は誰もが経験する馴染みのある感情ですが、上に述べたように不安が強くなり、生活に支障が生じているなら不安障害かもしれません。
ご自身で不安への対応を認知行動療法を用いて行ってみたい場合には、下の本が参考になります。
〇「こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳」大野裕著 創元社
不安障害の代表的なものには、全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害、強迫性障害があります。
厚生労働省のHPでは一般向けにこれらの疾病について簡単な説明がされています。
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_02.html
また厚労省が強迫性障害と社交不安障害の認知行動療法のマニュアル(治療者用)を公開していますので、参考までにここに挙げておきます。
〇強迫性障害(強迫症)の認知行動療法 マニュアル (治療者用)
〇社交不安障害(社交不安症)の 認知行動療法マニュアル (治療者用)
ほどよい不安をめざし、不安と上手につきあいながら生活していきましょう。
(竹田)